桃色のうさぎ

大丈夫な日の私だけをみつめてよ

似たもの同士の似非恋愛

3年付き合っているわたしの彼氏は、わたしとはまるで正反対の性格をしている。自分の考えを持っていて、物事を倫理的に考えて、だいぶ理屈っぽい。口喧嘩しても勝てないタイプ。対するわたしは、人に流されやすく、あまり考えずに行動し、物事をあまり深く考えたくない。生まれてこのかた口喧嘩もしたことがない。そんなわたしに似ている男友達が、数年前までいた。

その子とは、高校生の頃にTwitterで知り合った。ツイートに対してよく返信をくれていた。高校生の頃のわたしはプロ野球がだいすきで、その子も野球が好きだった。同じチームのファンの、関西に住んでいる同い年の男の子、名前をA君とする。
A君からSkype通話をしようと切り出され、不定期でSkype通話をする仲となった。どんな話をしていたのかは全然覚えてないけど、まぁ野球のこととか学校のこととか他愛もない話だったとおもう。お互い実家住まいだったから、深夜に繋いで、長いときで3時間くらい会話をしていた。A君の話は面白くて、当時学校生活をうまく送れていなかったわたしにとって、とても楽しい時間だった。
やがてA君からビデオ通話をしようと切り出された。画質は悪かったけれど、A君の顔はめちゃくちゃ好みだった。A君はTwitterでひたすら彼女がほしいと呟いていたけれど、べつに恋愛に発展することは一切なかった(Twitterの内容から察するに、A君は相当の面食いだった)。当時のわたしは初めての彼氏がカルト教団に入っていたという理由で失恋したばかりだったので、わたしから付き合いたいとか切り出すこともなかった。

A君とわたしの性格は似ていた。物事をあまりよく考えないところ、楽観的なところ(今は悲観的になってしまったけれど……)。友達が少なかったわたしはこんな人に会ったことがなかったので、話している間はとにかく心地が良かった。たまにしか連絡が来ない、つかず離れずな距離感も良かった。
音楽の好みも似ていた。お互い好きな曲をSkypeで送り合って、これ知ってるだとか、良い曲だよねだとか、夜通し語り合っていた。
今でもそんな関係が続いていれば良かったのにと、切に思う。

時は流れて、もうすぐ社会人になる頃、わたしは東京に移住していた。ちょうどA君が東京に来る用事があるとのことなので、5年間会ったことのなかったわたし達は、初めて会うこととなった。
生で見るA君はかっこよかった。歴代彼氏と比べても、2番目のかっこよさだった。そんな状況にわたしは舞い上がって、お酒をたくさん飲んで、一線を越えてしまった。けれど彼女にはなれなかった。

それから少しして、わたしは初任給をはたいてA君に会いに行った。A君から来てほしいと言われて、喜んで行ったのに、真夜中のSkype通話のような心地良さはもう無かった。A君は大学のイベントとかで疲れていると言って、ずっとテンションが低かった。流れで来てほしいと言ったことを後悔しているんだと確信した。わたしも来てしまったことを後悔していたから。

旅行の最終日、寝坊をしたと言ってA君は待ち合わせ場所に来なかった。悲しい旅行を終えた後、数通だけLINEを交わした。A君はわたしに好きだと言ってくれたけど、また流れで言ってるんだろうなと思った。わたしも流れで好きだと言って、それから二人が連絡を取ることはなかった。

数ヶ月後、わたしは今の彼氏である、同期の男の子と付き合うことになった。最初は若気の至りこそあったものの、彼は考えがしっかりしていて、当時恋愛関係がぐちゃぐちゃだったわたしを更正してくれた。たぶん彼がいなかったら、わたしはまた適当に男の子に好きだと言って、適当に付き合って、そんな女の子だったとおもう。実際、今のA君はそんな生活を送っている。
正直、今でもあの真夜中のSkype通話の、A君とバカみたいな話をしていた楽しさは忘れられない。けれど一線を越えた以上、当時と同じ友人関係は続けられなかった。人にすぐ流される似たもの同士の恋愛なんて、できるはずがなかったのに。

ずっと前にA君が面白いと言っていた漫画をなんとなく読んでみたら、とてつもなく好みでちょっとムカついた。やっぱりわたしと彼はよく似ていて、ずっと友達でいたかったなぁとひそかに後悔した。