桃色のうさぎ

大丈夫な日の私だけをみつめてよ

すきになった人のはなし

学生時代の片想いがとにかく楽しかった。昔から手の届かない存在に憧れた。
中学生の頃は「おおきく振りかぶって」の水谷にガチ恋をしながら(篠岡に惚れている描写が無理になって読むのをやめた)、三次元でも憧れの存在が何人かいた。野球部のキャプテン、クラスで一番頭の良いクールな子、バカだけどみんなの人気者……中でも一番好きだったのが、どこかの国のハーフである、1つ上の先輩だった。
文化祭で先輩がバンドを組んでベースを演奏しているのを見て(たぶんバンプの天体観測)、それまで存在も知らなかったのに一目惚れした。一体どうやって調べたのか、すぐに先輩の名前を調べて、クラスとバスケ部であることを特定した。この頃はいわゆる陽キャの人たちはほとんど前略プロフを作っていたので、リンクを辿ったりして見つけたんだとおもう。当時使っていたHDDを久々に開いたら、前略プロフから見つけたのであろう先輩が写っている写真が保存されていた。恐るべしネトスト力。

先輩に対しても付き合いたいとか話したいという感情は一切無く、むしろこちらの存在は知られたくなかった。遠くで見るだけで十分という、まさに推しに対するそれだった。ごく稀に校舎内で見かけるだけで発狂し、職員室前に飾ってあるバスケ部の集合写真に先輩の姿を発見してからは、そこを通るたびに写真を凝視した。
そのうち仲間内で先輩の勝手なキャラ付けが始まった。赤の他人なのに失礼だ。イチゴオレを飲んでいるところを見かけたわけでもないのに、ギャップ萌えするからという理由だけで、勝手に「イチゴオレが好き」という謎の設定を付けた。
事件は球技大会で起きた。通路を歩いていると、遠くでしか見かけたことのなかった先輩が向こうから歩いてきた。心臓が爆発しそうになりながらすれ違おうとしたわたしの目に飛び込んできたのは、先輩が手に持っているイチゴオレだった。学校ではなるべく先輩のことを話さないようにしていたし、学校外で話すときにも名前を出すことは絶対にしなかったので、こちらの存在やキャラ付けしていることが本人にバレているわけでは無い。自分に透視能力でもあるんじゃないかと思った。

やがて、廊下に「卒業まであと○○日」のカウントダウンが掲示されるようになった。先輩が卒業してしまえば、姿を見ることは絶対に無くなる。カウントダウンの数字が小さくなっていくたび胸が締め付けられて、だからといって何をするわけでもなく、そのまま先輩は卒業した。

その後のわたしはどうしたかというと、3年生になると同時に突然嵐にドハマりして、嵐熱が治まった後は野球の面白さに目覚めた。ときめきを補給しようとしていた。高校に入ってから「彼氏が欲しい」という感情が芽生え、恋愛をするようになった。
一番思い出に残っているのが、高3の頃に付き合ったクラスメイトのS君だ。その頃わたしはミッシェル・ガン・エレファントにハマり、DVDでアベを見ては号泣するくらい重症だった。このS君が眼鏡をかけているアベにそっくりで、S君のことが気になるようになった。完全に代償行為だ。
S君は女子とは関わらないようなタイプだったので話したこともなかったけれど、どうしても近付きたかったわたしはメアドを書いたメモ用紙(当時はLINEなんて無かった)を突然S君に渡すという暴挙にでた。驚いたS君はその場でメモ用紙を開き、絶対ドン引きされると確信していたわたしにめちゃくちゃ爽やかな笑顔で「オッケー!」と返してくれた。ますます好きになった。
それからわたしとS君はメールを交わしたり、学校でもたまに話す仲となった。やがて大学のオープンキャンパスの季節になり、一緒に行くこととなり、その帰り道に告白をして、OKをもらえた。帰り道のわたしは何も考えられなくなって、ひたすら脳内で銀杏BOYZの「夢で逢えたら」が流れていた(当時めちゃくちゃ聴いてた)。
S君とは1度だけデートをしたけれど、彼は本当の意味でリアルが充実している人(所属しているサッカークラブとか友達と遊ぶとか)で、なかなか予定も合うことがなかった。楽しみにしていた花火大会も断られた頃、わたしと居ても迷惑なのでは?というメンヘラ思考に陥り、離れた方がいいのかもしれないと思うようになった。そして秋から卒業まで話すこともなく自然消滅となってしまった。

あの頃は楽しかったと今でも懐かしむし、何度も夢にみる。
当時はすべてが新鮮でドキドキすることばかりだった。中学生の頃はたまたま登校中に先輩を見かけて、白と黒の市松模様のマフラーをしているということがわかっただけで嬉しかったし(わたしの記憶力も恐ろしい)、S君と話すための口実としてクッキーを焼いて持っていったりしていた。S君に告白した日のことも、最初で最後のデートで話したことも、すべて覚えている。S君に関しては嫌な面を知らないまま離れたから、完璧な人という記憶のまま6年も経ってしまった。いまでもS君が夢に出てくるときはわたしは高校生のままだし、あのとき感じたときめきもぜんぶ蘇る。
けれど、もしも今先輩やS君に会ったとしても、わたしは彼らを選ぶことはないとおもう。逆に今付き合っている彼氏も、学生時代に出会っていたとしても付き合っていなかった。実際学生時代は爽やかで運動神経の良い人が好きだったから(小学生か?)、いまの彼氏のことをすきになったことが不思議でもある。いままで色んなひとと出会って、いろんなことを経験したからこそ、いまの彼に惹かれたのだろう。