桃色のうさぎ

大丈夫な日の私だけをみつめてよ

スマホ越しにきみに焦がれる

お酒の力に助けられる夜もある。
昨夜は家で一人で飲んでいた。半端に余っていたワインをあけたら気分が良くなって、予備で買っておいたビールを一気に飲み干した。
お気に入りの音楽をBluetoothスピーカーで流し、一緒に口ずさみ、すっかりわたしはご機嫌だった。
酔ったわたしは、普段抑制している欲望が出てしまうことが多い。好きな人の声が聞きたい、と、強烈に思った。

 

LINE画面を開いて、発信ボタンを押すのは簡単だ。
相手が出てくれなくても、間違えてかけてしまったことにすればいい。そのやり取りだけでも良かった。むしろ出ないでほしかった。
わたしの願い通り、彼が応答することはなかった。すぐさま「ごめんなさい、間違えました。気にしないでください。」とLINEを送って、相変わらず空回っている自分への嫌悪に打ちひしがれた。

 

数分後、トイレに行ってきてスマホを見たらLINEが何通も来ていた。彼からだった。
どういうわけかわたしが送ったLINEが届いていなかったらしく、電話かけた?間違い?と、焦っている様子の文面になんだか拍子抜けして笑ってしまった。
間違いではありません、「声を聞きたいなと思って押した」が正解です。少しでもいいので、電話できませんか?と、わたしは正直に送った。
ご飯を作り終えてからで良ければ、という返事が来てから連絡が来るまでの間、心臓が破裂してしまいそうだった。

電話をかけたところで話題なんてあるのだろうか、突然電話がしたいだなんて引かれただろうな、と心配していたわたしをよそに、電話の向こうの彼はなんだか楽しげだった。
普段よりも低く聞こえる声はいつものように優しい口調で、いつものようにさまざまな話をしてくれた。音質が少し悪いことがもどかしかった。
10分だけでも話せればいいな、と思っていたのに、わたしたちはおよそ1時間半も喋り続けた。話題は途切れることがなくて、二人同時に喋り始めてお互い譲り合いになったときは可笑しかった。
話していてこんなにも楽しい人は初めてだ。わたしが話したことへの反応も、彼の話も、何もかもが心地良い。
この前の飲み会の帰り道、連絡したいけど迷惑かと思ってできないし、と泣きついたわたしに、連絡なんていつでもしていいよ、と彼は答えていた。それが社交辞令ではなかったことが、とてつもなく嬉しかった。
電話って楽しくないですか?と聞くわたしに、彼は照れくさそうに笑った。これからもしていいですか、と聞いたら、今度は事前にLINEしてね、と答えた。

 

好きな人と電話をしたくても、俺だったら怖くてかけることなんてできないよ、きみは本当にすごいね、と彼は言った。
どういう意味なのか最初はわからなかったけれど、どうやら彼は純粋に褒めているようだった。
わたしが彼への熱烈アプローチで玉砕した日、恋愛は引くことも大切だよ、と彼に咎められた。
けれど、酔った勢いでかけた電話によって過ごした時間は、わたしにとっても彼にとっても間違いなく楽しい時間だった。
わたしが彼に出会ってから色々なことが変化したように、わたしによって彼もなにか変化があったら嬉しい。
そんなことできるかわからないけれど、どんな手段でも、彼を楽しませられたらそれでいい。わたしの話で笑ってくれる彼のことが、大好きでたまらない。