桃色のうさぎ

大丈夫な日の私だけをみつめてよ

デート30分前の手記

好きな人に会うときは、前の晩から大騒ぎだ。
彼にネイルを褒めてもらうことを生き甲斐にしているので、たとえ塗ったばかりであろうとも少しでも剥げていればすべて落とし塗り直す。急いで塗ると仕上がりが雑になってしまうので、1時間ほどかけて丁寧に、爪先に魔法を施す。


次の日の朝、大好きな音楽を聴きながら、30分ほど湯船に浸かる。特別な日にしか使わない良い香りのシャンプーで髪を洗い、化粧ノリをよくするために保湿も念入りに行う。
着替えを済ませてから、出かける2時間前から化粧を始める。30分もあれば終わる作業だけれど、だいたい服がしっくりこないだの、靴が見つからないだの騒ぐこととなるので、念には念を入れる。化粧のときも好きな音楽は欠かせない。最近のお気に入りは東京事変の「女の子は誰でも」。
瞼に大きめのラメ、涙袋には細かいラメ、2色のアイラインを上瞼と下瞼にひいて、マスカラはだまにならないように。
数年前は化粧なんてめんどくさくて、ほぼすっぴんでいることを誇りに思っていたけれど、今ではこの作業が大好きだ。好きな人に褒められたいためだと思うと尚更だ。
前髪を作る工程はいちばん難しい。今日も巻きすぎてしまい、必死で指で伸ばした。ひたすら鏡とにらめっこするのは、隣に並ぶ好きな人に少しでもかわいいと思われたいから。
姿見なんてものはないので、机においた鏡から少し離れて全体像を見る。納得がいけば、恋愛兵器わたしの完成だ。

 

好きな音楽を聴きながら電車に乗る。天気は小雨。好きな人と会う日は天気が悪い日が多いけれど、そんなこと関係ない。唯一、新品のパンプスを履けないことは残念だけれど。
待ち合わせ時間が近づくたびにわたしの心臓は破裂しそうになる。どうか少しでも一緒にいて楽しいと思ってもらえるように、意味のないシュミレーションを何度も繰り返す。
片想いって、とても楽しい。