桃色のうさぎ

大丈夫な日の私だけをみつめてよ

麗しいご加護があるように

ひとり暮らしを始めて一週間が経った。
最初は寂しさで圧し潰されそうになって、あんなに後悔しないと決めていたのに、なにか間違えたのかな、と毎晩泣いた。新居で初めて食べたご飯は、涙でしょっぱくなったふりかけごはんだった。
けれど人間不思議なもので、どんな状況でもいつかは「慣れ」がやってくる。
人の声を聞きたければテレビをつければ良い。不安なニュースで疲れたなら、ネット配信でばかみたいな番組を観れば一人でゲラゲラ笑うことができる。話し相手がいなくて寂しい夜もあるけれど、眠る前に間接照明をつけて、ホットミルクを飲みながら夜にぴったりの音楽を流すのは、一人でないと送ることのできない、とても心地のよい時間だ。

「心地よさ」「楽しさ」の選択肢はいくらでもある。
わたしは「誰かと過ごす楽しさ」しか知らなくて、それが突然なくなったから、ただ戸惑っていただけだ。
それなら「一人で過ごす楽しさ」をこれから見つけていけばいい。
いまは外出自粛でだれかに会うことも憚られるけれど、一人で好き勝手に飲むお酒も楽しいし、かならず夜明けはやってくる。
それまでに少しでも自制心を育ませて、ひさしぶりに好きな人に会ったときに好印象を与えられることができるなら万々歳だ。


春のあたたかくてやわらかな風は、なぜだか好きな人のにおいがする。
こんなにも心地が良いのにどこにも行けないのは勿体ない。けれどみんなが頑張って、我慢をして、だれかを守ることができたぶん、来年は何倍にも素晴らしい春が間違いなくやってくる。
悲しいこと、不安なことも多いけれど、変わらずにおひさまが昇り続けるかぎり、わたしたちは生きていける。

こんな状況でも、やさしい心を持って生きている人たちに、早くあたたかな日々が訪れますように。