桃色のうさぎ

大丈夫な日の私だけをみつめてよ

17歳、ミッドナイト清純異性交遊

17歳の頃、学校も家庭も居場所がなくてぼろぼろだったわたしは、とあるSNSに登録した。
ユーザーはほとんど20代で、女子高生だなんて信じてもらえなかったしネカマとすら言われた。けれど学校や家庭が辛いことを日記に綴っていくうちに、いろんな人がわたしに優しくしてくれるようになった。
17歳というだけで、下心を持って近づいてくる男性もたくさんいた。当時のわたしは馬鹿だったからそれを拒むことをしなかった。どんな形でもいいから、とにかく誰かに愛されていたかった。

 

Skype通話をするようになった人も何人かいて、その中にふっくんという男性がいた。
ふっくんはSNS上の書き込みだけだと性別すらわからないほど(しばらく女性だと思い込んでいた)全然素性を掴めなくて、けれどなぜかみんなに人気があって、わたしが弱音を書き込むと誰よりも元気になれる言葉をくれた。
通話仲間の中で、一番通話時間が長かったのはふっくんだと思う。当時通話をしていた男性のほとんどはわたしに下心を抱いていたけれど、ふっくんは唯一、わたしのことを友達として扱ってくれた。
当時のわたしは音楽しか縋るものがなくて、エルレガーデンばかり聴いていた。30歳だったふっくんはエルレ全盛期で、解散前にライブに行った話などをしてくれた。
学校にいる意地悪なクラスメートや、下ネタしか脳の無い男子のこと、すこしおかしくなってしまった家族関係のことなど、ふっくんはわたしが話すことをなんでも聞いてくれた。
ふっくんから話してくれることはどれもこれも他愛のない話だったけれど、とても居心地がよかった。

 

やがてわたしはSNS上でのいわゆるサークルクラッシャーがバレた。バレたのはたった一人だけだったけれど、やがてみんなに広まるだろうと思って、そのまま消えてしまうことにした。
ふっくんがSNS上からいなくなったのもその直前だったと思う。よくアカウントを消しては別名で登録を繰り返していたから(ふっくんであることを隠そうとはしていなかったから、なぜそんなことをしていたのかは不明である)さほど気にならなかったけれど、Skypeもオフラインの状態が続いた。
その数か月後、わたしは学校での居場所を取り戻し、クラスメートに好きな人もできて、ようやく真っ当な青春を過ごすことができたから、ふっくんの存在は忘れてしまった。

 

2018年、エルレが再結成すると知り、すぐに思い出したのはふっくんのことだった。
どうしても話したくなって、当時使用していたSkypeにログインしようとしたけれど、ユーザー名もパスワードも失念してしまった。
そして先週、一人で家で飲んでいるとき、どうしてもふっくんと話したくなった。あれから10年ちかく経とうとしている。恐らくふっくんはもう40歳で、結婚して子どもだっているかもしれない。
それでも一言でも話せれば、またあの心地の良い夜を過ごせそうな、そんな幻覚をみてしまった。
わたしは試しに10年ぶりにSNSに登録して、ふっくんの存在を探した。けれどユーザー一覧は当時と様変わりしていて、ふっくんの姿はどこにもなかった。

 

どんな話も受け止めてくれるところや、わたしのことをからかうのが上手いところなど、今の好きな人とふっくんはとても似ている。
ふっくんのように、互いに友達というだけの認識だったらどれだけ幸せだっただろうか、生涯の親友になれていたかもしれない。
先日、まだちゃんとした告白は一度もしていないというのに、わたしは好きな人から二度目の友達宣言を受けた。終電間際の電車を待ちながら、ポルノグラフィティの「ロマンチスト・エゴイスト」を聴いてわたしは号泣した。
それでも好きな人は変わらずに優しくて、諦めることなんてできないと思った。
あれだけ男を弄んでいたわたしが、不毛な恋にこんなに必死になっているなんて、ふっくんが聞いたらどんな反応をするだろうか。
もう二度と来るはずもない、17歳のあの夜をわたしは何度も思い出す。